2009/05/25

灰色の町に映える緑の点描──白金、目黒

2009.5.19
【東京都】

 ここ何週か地下鉄南北線に沿って南下しています。
 久しぶりの目黒に降り立ったこの日、この町に通い始めたころを想起しました。
 以前勤めていた会社の目黒移転にあたり、事前の下見から参加していたので、自宅の引越と同じように新転地への期待感が高まり、ここはどんな町なんだろう、と楽しみだったこと思い出しました。
 それまで目黒付近で知っていたのは、美術館(庭園、目黒区立)と萬馬軒(ラーメン屋)だけでしたので、会社をベースに恵比寿や白金付近を歩けたことは、見聞が広まったと思っています。


 池田山公園(Map)

 ここは江戸時代、岡山城主・池田氏の下屋敷があったことから、付近の高台を「池田山」と呼ぶようになったそうです。
 「山」と言われるのも納得できる、崖のような傾斜地の高低差を、見事に利用した庭園となっていて、季節ごとに楽しめそうな空間を作り出しています。
 ここは「白金」としてもてはやされる地域とは、目黒通りを挟んだ反対(南)側になり、お寺が集まっている地域になります。
 印象としては谷中に近いものがあり、以前そこを歩くうちにこの公園にたどり着いた記憶があります。

 今回、道を間違え迷い込んだところがスンゴイ高級住宅街で、皇后(美智子さん)の実家である正田家があった(数年前に取り壊され、公園とされている:未見)土地柄とは知らなかったので、ちょっと驚きました(東五反田の住所表示がありました)。
 そんな場所をウロウロ、キョロキョロしていたのですから、防犯カメラに何度も映ってしまい、怪しまれていたかも知れません。
 高級住宅街の区画は「ピシッ」としていますが、それ以外の場所では、土地を知らない者は無駄にのぼりくだりさせられる印象があり、効率的に歩くためには等高線の入った地図が必要かも知れません。
 坂を登る自動車も低速ギアでうなりを上げる坂を、おばあさんが休み休み登っていきます。運動になっていいとの見方もありますが、坂の町に暮らすのはやはり大変そうです。


 三田用水(Map)

 この地域を歩こうと計画していたころ、TV番組「タモリ倶楽部」の「三田用水のこん跡を巡る!」という放送を見て、近いから行ってみようという動機で探し歩きました。


 三田用水とは、有名な玉川上水(多摩川の水を羽村から四谷まで引き込む水路)から現在の下北沢辺りで分流させ、東側の渋谷川水系と西側の目黒川水系の境目である台地上を通して、三田や大崎(上写真の右が三田、左が大崎方面への分水路)への飲用・農業用水路として開かれたものです。
 その地形を理解するには、恵比寿駅やガーデンプレイス辺りが分かりやすいかと思います。
 東側の天現寺方面と、西側の中目黒方面どちらにも下っていきますから、そんな場所が高台の頂上になります。
 そんな尾根のような場所を通さないと、品川付近まで続く高台に水を供給できないので、いろいろと工夫されていたそうです。
 驚いたことに、目黒駅前(西側:久米美術館前)に水路が通っていて、山手線の上を水道橋で横断していたんだそうです。
 またまた驚いたのが、1974年までサッポロビール恵比寿工場(現ガーデンプレイス)では、その用水を使用してビールが作られていたそうで、工場が水道水に切り替えることでようやく、三田用水が廃止されたということです。
 ──それまでエビスビールは、多摩川の水から作られていたんですね。当時わたしはまだ未成年ですから、その味を知りませんが……


 自然教育園(Map)

 都心の一等地にこれだけの規模(Map参照)で、武蔵野の森が自然のままの姿で残されていることには、訪れる度に驚かされます。
 正式名称は「国立科学博物館付属自然教育園」ですから、国が管理しているようです。
 園内には屋敷(城)跡とされる、土塁跡(土を盛った城壁のような構造物)がいくつも残され、1400年前後(鎌倉時代末期)ここには「白金長者」の館があったとする看板も立っています。
 その長者は、銀を大量に所有していたので「銀長者」と言われたそうです。
 現在の地名である「白金(しろかね)」の由来は、上記の「銀」(辞書で引くと:しろがね)によるそうで、むかしは「しろかね」と発音したので、白金(はっきん:プラチナ)ではないようです。


 江戸時代は高松藩主(松平頼重)の下屋敷、明治時代は陸海軍の火薬庫、大正時代は白金御料地(皇室の財産)とされた経緯により、人の手から守られてきたこともあり、昭和24年(1949年)には全域が天然記念物および史跡に指定され、一般公開されるようになったそうです。
 おそらく「武蔵野の原生林」の保存を目指していると思われ、必要最小限の手入れしかしておらず下草も伸び放題なので、冬枯れの時期以外は、ちょっと見晴らしが悪くなります。
 グルッと回ると30分はかかるので、気分転換、日常逃避に十分利用できると思われます。
 出口の目の前は目黒通りなのでそのギャップの大きさから、逆にいいリフレッシュになったことを思い知らされたりします。
 ただ、唯一の難点がカラスの多さです。
 都市での自然林保護→カラスのねぐら、という方程式は変えられないんでしょうねぇ。
 カラスだけ駆除しても、自然林ではなくなってしまうのでしょうから……


 東京都庭園美術館(Map)

 このネーミングが見事ですよね。
 若い時分、その名前に引かれて、いつか訪れたいと思っていました。


 ここは1933年(昭和8年)に、朝香宮(あさかのみや)邸として建てられ、国の迎賓館に使われる等の経緯を経て、1983年(昭和58年)から都立美術館となったそうです。
 展示スペースは広くありませんが、建物が落ち着いた空気感を演出してくれるので、とても好きな空間です。
 静けさが欲しい(人出は少ない方がいい)反面、展示の規模によって展示室(部屋)の数が増減するので、なるべく大きな企画展示を狙って行った方が、いろいろな部屋を見ることができるので、より楽しめると思われます。

 自然教育園の敷地を区切って、建物や庭園を造成したと思われますが、ここはいい意味で「人工的」な一画になります。
 芝生広場の周りに外来種の大木を配したり、日本庭園(下写真)や、西洋庭園などもキレイに手入れされています。
 右写真の広場では、来園者が好きな場所にイスを持ち運ぶことができるので、日陰に移動することも可能です(右はおばさまたち歓談後の光景)。
 

 ここの西洋庭園には桜や梅が植えられていて、しゃれたテーブルセットに腰掛けて「ほら、桜がキレイよ」という状況を演出したいようです。
 ここは以前、迎賓館にも使われたそうなので、海外からのお客さんをもてなすための構成となっているのかも知れません。
 われわれは和洋折衷(せっちゅう)好きというか、生活の中では和にこだわることなく、機能的で便利なものは積極的に取り入れたがる性格を持っていると思われます。
 そのくせ、和で統一された空間などでは「やっぱり落ち着く」などとなごんだりします。
 日本庭園では、自然を取り込んで生かそうとしますから、そんな「あいまいさ」「はかなさ」が、やすらぎを与えてくれるのかも知れません。 
 今どき「和の空間」を経済活動で生かせる方は少ないでしょうから、それは「Off Time」の空間ということなのかも知れません。

 職場が目黒に移転すると決まったころには、この庭で息抜きができる、と思ったものですが、近いからといっていつでも来られるものでもありませんね……


 目黒不動尊(Map)

 ここは、瀧泉寺(りゅうせんじ:天台宗)といい808年(平安時代)に開かれたそうですが、繁栄したのは江戸時代だそうです。
 富籤(とみくじ:宝くじ)が行われ、独鈷滝(とっこのたき:下写真)を浴びると病気が治るとの信仰もあって、庶民の行楽地として人気が高まり、落語の題目である「目黒のさんま」は近くの茶屋が舞台とされる等、とても注目された存在だったようです。

 五色不動(ごしきふどう)のひとつで、三代将軍徳川家光が江戸の鎮護のため、江戸市中にある五つの方角の不動尊を選んで色を割り当て、目白不動(豊島区高田)、目赤不動(文京区本駒込)、目青不動(世田谷区太子堂)、目黄不動(台東区三ノ輪と江戸川区平井)としたそうです。
 ですが、江戸時代には目がつく不動が3つしかなかったものを、明治以降、5つとしたとの説もあるそうです。


 不動へ向かう参道で、中学生くらいの男の子がちょうど並ぶ感じで歩いていて、その子が目の前を右へ左へウロウロと蛇行しながら歩くのでこちらも歩きづらく、少し情緒不安定な子なのかと思っていました。
 つかず離れずしばらく彼を観察していると、どうも道の両側にあるお店の中をのぞいて、店の人の顔が見えたらあいさつをしているようです(だから右の店、左の店に近寄っていたんです)。
 タイミングが合えば「お帰りなさい!」と、お店の中から声が掛かるわけです。
 うわぁ、この子何なんだ? と思い、後を追ってみようかとも思ったのですが、不動に着いてしまいました。
 彼はどこかのボンボンなのかも知れませんが、もし、参道を通る子どもたちみんなが「あいさつをして帰りましょう」という取り組みであったとしたら、とても素晴らしいことであると感心させられてしまいます。
 この不動では、境内まで入らずとも道路からお祈りをする方の姿を見かけたことがあります。
 立ち寄る時間はないが、素通りはできないので、ここから失礼します、ということでしょうか(本当はそんな姿が撮れればと思っていたのですが)。
 そんな町だからこそ「あいさつ参道」が実現できるような気がしたのですが、いかが思われますか?

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