2019/12/23

冬を覚悟する色彩──小石川植物園

2019.12.8【東京都】

 前回の紅葉散策は不完全燃焼気味だったので、小石川植物園の新しい温室が完成(11月19日から一般公開)したこともあり、いい機会と足を運びました。



 筑波大学東京キャンパス文京校舎前に、上の旧磯野家住宅(1912年 重要文化財)があります。元衆議院議員で「山林王」とされた磯野 敬が、高田馬場にある茶道会館を建設した北見米造に、寺院風、地震に強い、耐火性の要件で、費用や工期に制限を設けず依頼したもので、当時の和風建築の粋を凝らした技術が見られるそう。見事に関東大震災や戦災を免れ、現在大谷美術館(ホテルニューオータニ系列)の管理下に置かれます(公開は特定日)。
 東京メトロ「Find my Tokyo.」でもゆるく紹介。
 ミョウガが自生した谷は、地下鉄丸ノ内線が地上を走るあたりらしい。

 江戸時代付近には徳川光圀の弟 松平頼元の屋敷があり、右の占春園は江戸名園のひとつに数えられたそう。
 1903年(明治36年)湯島から東京高等師範学校が移転し、後の東京教育大学→現 筑波大学(1978年筑波へ一部移転)がありましたが、縮小された跡地に教育の森公園(上)が整備されます。
 そんな経緯から、占春園には嘉納治五郎(東京高等師範学校長、附属中学校長)の銅像が建ちます。海外からの人望の厚さを糧に国際スポーツの扉を開き、「日本オリンピックの父」とされること、大河ドラマ「いだてん」でよく理解できました。

 小石川植物園(東京大大学院理学系研究科付属植物園)に完成した新しい温室は、旧温室の約4倍の広さだそう。
 熱帯性植物や小笠原諸島固有の絶滅危惧種 等が並びますが、研究施設なので一般的な温室のような華やかさはありません(植物に関心が薄い者の印象)。わたしと同様、紅葉とセットで足を運んだ方が多いように(以前の温室はいつも閑散としていました)。
 唯一の難点だったトイレが、温室内に新設されたことを広めれば、足を運びやすくなるのではないか。

 高さのバランスがちょうどいいので、また紅葉と子どもの絵を……

 施設の前進は江戸幕府の小石川御薬園(おやくえん:1684年)で、当初5代将軍徳川綱吉の別邸に設けられ、8代吉宗の時代に敷地全体が薬草園とされます。目安箱への請願を受け、江戸町奉行 大岡忠相(大岡越前)が薬園内に開設した診療所(小石川養生所)が、赤ひげ先生物語(山本周五郎の小説、黒澤明の映画)の舞台とされます。

 バリバリと枯葉を踏みしめ、様々な樹木をキョロキョロ眺めていると、ガキ時分に歩いた近所の雑木林を思い出します。当時は全身に枯葉をまとっていたことと……


 新温室完成に合わせ入園料が上がりましたが(500円)、広い園地を楽しめるので仕方ないとも。
 将軍の別邸は、散策で「いい運動」になる広さや、景観の多様性(傾斜地や水辺)確保が要件とされた(?)おかげで、現在もゆったりと楽しめます。

 穏やかな陽気だったこともあり、紅葉を楽しみ冬の寒さを覚悟する季節の行事として、満足することができました。
 新温室の写真は掲載できませんでした……


追記──NHK大河ドラマ「いだてん」終了

 今年のNHKには「介入しすぎ」の印象があります。
 朝ドラ「なつぞら」は100作目のため、スペシャルゲスト(歴代ヒロイン)を登場させようと、無理やり設定した場面が目についたし、「いだてん」脚本 宮藤 官九郎の「思うようにできないストレス」も耳にしました。
 クドカンの言葉・会話好きが感じられる、朝ドラ「あまちゃん」の「ジェジェジェ!」に続く、「…じゃんね!」(三河弁らしい)は、ひとりごとで口にしています。
 同時代の語り部として描かれた、古今亭志ん生 役のビートたけし(クドカンの世界観)は強く印象に残ったが、スポーツ・世界情勢・政治を同時に描くには時間が必要なため、対象とする時間軸が長すぎたようにも……


追記──競泳 池江璃花子 選手退院!

 誰もが信じ、応援していたと思うが、退院の知らせに安堵しました(涙が出た)……
 すでに「2024年パリ五輪出場、メダル獲得」の目標に向け、イメージトレーニングを始めているそうで、これからも応援しなければ!

2019/12/16

令和を実感できた大嘗宮

2019.11.30【東京都】

 紅葉散策をしようと皇居東御苑〜北の丸公園を考えていたら、「大嘗宮一般参観及び令和元年秋季皇居乾通り一般公開」とのことで、その流れに乗りました。


 地下鉄から地上に出て、大手町のビル街より日向を歩きたかったが、かなり手前から「大嘗宮見学はこちら」と誘導されます。大嘗宮一般参観に、この日から皇居乾通り一般公開が加わるため、混雑を見込んでいたようです。

 東京駅前の行幸道路のイチョウ並木が鮮やかなので、より道を。葉の色づき具合(時季)と、日差しの具合(時間帯)が合えば、駅舎の赤れんがとイチョウの配色はキレイな絵になりそうです。緑の季節もよかったし新緑も映えそうと感じるのは、背の高い並木によるもので、造園を含めた都市設計に感心させられます。

 以前の乾通り一般公開で渋滞した手荷物検査場の混雑は改善されましたが、坂下門を通る際の多少詰まった感は、狭き門ゆえ仕方ないのかも。
 皇居内では、従来の乾通りとは別に桔梗門方面の通行も可能なため、乾通りを見ずにそちらへ向かいます。
 右の富士見櫓は本丸南端に位置し、天守焼失後は代替施設とされ、名称通り富士山の眺めがよかったようです。近づけなくなった本丸広場よりも(以前はそばまで行けた)、石垣に建つ姿に威厳を感じます。
 右は露出オーバーの失敗作ですが、普段入れない場所の記録に残しておきたいので。


 大嘗祭についてはメディアの様々な解説のおかげで、皇室行事としての必要性は理解できましたが、施設関連費の27億円を議論せず拠出した予算措置には疑問を感じます。秋篠宮の「宗教色が強いもので、国費で賄うことが適当かどうか」、天皇の私的生活費の「内廷費」から支出されるべき、との考え方は時代にふさわしく、「議論の必要なし」と金を出すことが政府のアピールになるとの考えは、時代を見誤っています。
 皇位継承関連費166億円はかなり高額ですが、今年の漢字に「令」を選ぶ国民の高揚感を生み出しました(肯定的な見解です)。


 新天皇が国家・国民の安寧・五穀豊穣を祈念する秘事は、結界の中で行われるため場所を選ばないようです(背後は大手町ビル群)。儀式は天皇制をアピールするもので、国内に限らず海外メディアにも取材してもらうため、東京の真ん中で行なわれたようにも。
 羽田空港にある礼拝スペースのように、信仰心を持つ者の祈りの場を確保することは可能だが、それは信仰対象はどこにもいるし、どこにもいない、と受け止めることもできます。そんな懐疑的な見方を払拭するためにも、儀式(イベント)は盛大に見せる必要があるのかもしれないと……(納得するには行事を理解する必要があります)


 昨年同じルート(皇居乾通り〜北の丸公園:上)を一週早く歩いた時との比較では、イチョウは見頃、モミジはまだの印象ですが、季節の進み具合に大きな違いはないように。
 毎年必ず見頃はあっても、訪問時に出会えるとは限りませんから、ブツブツ言うことで季節感を楽しめばいいのではと……


 現在日本武道館(1964年)はTOKYO2020に向け、改修工事(屋根改修、天井耐震化、バリアフリー化)・増築工事(練習施設)が行われています。柱のない施設の耐震化工事は大変そうだし、どこを通っても階段が多くバリアだらけの施設なのも確かです。
 工事は2020年6月までの予定で、オリンピック・パラリンピックは観戦できなくても、武道大会の際にのぞいてみたいと。


追記──吉野 彰さんノーベル化学賞授賞式

 受賞の知らせを受けてからの笑顔は、「雲の上を歩くような気持ち」によるらしいが、授賞式後の引き締まった表情には、使命感を胸にした覚悟のようなものが感じられました。
 想像ですが、大きな影響力を身につけた人の行動には、これまで以上の責任感が必要なようです……


追記──ONE TEAMパレード(ラグビーワールドカップ日本代表)

 改めて魅力的なキャラクターを持つ連中の集まりと再認識しました。フィールドの厳しい表情とは別人のように泣きじゃくる姿には、男でもキュンとくる可愛さを感じたりします。
 彼らを輝かせるのは「ラガーマンシップ」との理解が広まれば、健全な精神育成の追い風になることと……

2019/12/09

ここより武蔵野──三鷹

2019.11.24【東京都】──地下鉄 東西線を歩く_53

 吉祥寺までとは違う空気感が漂う駅前では、「武蔵野へようこそ」と三鷹の森ジブリ美術館行きのデザインバス(残念ながらネコバスではない)が迎えてくれます。



 JR三鷹駅は1930年(昭和5年)玉川上水の上に開設されます(上は南口側に架かる三鷹橋と停車中の総武線各駅停車)。この立地は、上水を境界とする北側の武蔵野村と、南側の三鷹村への仲裁案とも思えますが、武蔵野村にはすでに吉祥寺駅がありました。駅の前進は三鷹信号場・電車庫とのことで、位置関係から決められたのか?

 駅を含む南側の連雀町は、江戸時代の大火で被災した神田連雀町(現在の神田須田町・神田淡路町付近)住民の移住地とされた地域で、神田にも連雀町ゆかりの名が残ります。
 右は北側の暗きょを整備した遊歩道。

 駅前から水路と遊歩道が続く光景は武蔵野のイメージに重なり、吉祥寺周辺の善福寺池・井の頭池に感じた「らしさ」が、「ここから武蔵野」の印象に変わります。
 玉川上水は、2003年国の史跡(土木遺産)に指定され、清流復活事業として下水の高度処理水を小平監視所(立川市)から流すことにより、流量を保持しています。
 近くにある境浄水場は、村山貯水池(多摩湖)山口貯水池(狭山湖)の水を引き入れるように、武蔵野は多摩と都心をつなぐ重要な役割を担います。
 武蔵野市は独自の市営水道を運営するので(井戸水の汲み上げ)、浄水場の水は給水されないそう。


 上は、今回目指した地下鉄東西線の西端となる三鷹車両センター(奥の水色の車両が東西線で、深川車両基地が整備されるまでここを使用)。立ち位置は三鷹電車庫跨線橋(車庫と中央本線をまたぐ歩道橋)の上で、この日も子供連れが見られるように、鉄道ファンでなくても結構楽しめます。
 右の南側の階段を歩く太宰 治(三鷹在住)の写真が案内板にあるように、以前から名所(?)だったらしい。
 北側には、1951年国鉄スワローズ本拠地を目指した武蔵野グリーンパーク野球場に向かう、武蔵野競技場線の痕跡が残ります(旧中島飛行機の引込線跡を利用)。


 この日、三鷹中央通り商店街では「星マルシェ」が開催されています(毎月第4日曜にMマルシェ(三鷹マルシェ)を開催)。三鷹で星といえば国立天文台で、三鷹に関わるものは何でも宣伝しながら盛り上がろう、との趣旨はいい取り組みと。
 はてと振り返ると、天文台でもっとも近い三鷹天文台には行ったことがなく、スポッと抜けていたことに気づきます。隠れ天文ファン気味ではあるものの、何かのきっかけでスイッチが入ると盛り上がれるので、近いうちに機会を作らねばと……


 太宰 治、森 鴎外の墓がある禅林寺に初めて足を運びました。黄檗宗とのことから、本山とされる京都の萬福寺が思い出されます(独特の雰囲気があった)。
 鴎外の墓は関東大震災後に移転したものですが、太宰の墓設置には檀家から猛烈な反対があったそう。両氏の小説には、読後の強烈なインパクトが残っており、感受性豊かな時分の読書の大切さを改めて感じます。
 上は隣接する八幡大神社で、灯りがともされる提灯が神社らしい風情です。


 「地下鉄 東西線を歩く」はこれで終了になります。
 同一路線ながら、西葛西からは都心を横断することになり、様々な境界線(隅田川、神楽坂、中野 等)を実感することができました(やはり三鷹は遠かった…)。
 都心西側で育った者が東側で暮らすようになり、その地から西側を見上げると、武蔵野台地の安定性(地盤・水害に対する安心感)を再確認するとともに、関東大震災後の民族大移動の心境(いつの世も便利さに惑わされてはいけない)を理解できた気がします……

2019/12/02

井の頭池が「モネの池」のように? 

2019.11.9【東京都】──地下鉄 東西線を歩く_52

 池の畔に並ぶ圧倒的な桜並木も、2017年に開園100周年を迎え、樹齢とともに傾くものが目につくため(土壌が柔らかいためか)、植え替え時期が迫っているようにも……


 井の頭自然文化園(動物園)のゾウ舎では、アジアゾウの「はな子」(1954年〜2016年)が飼育されましたが、ガランとした光景が喪失感を増幅するように感じられます。舎内の追悼展示を見たいのは母親らしいが、経緯を知らない子どもは当然「ゾウいないの?」の反応になりますから、機を見て今後の方針を決めるべきかと……

 敷地内の彫刻園には、長崎の平和祈念像を制作した北村西望(1884〜1987)の作品が展示されています(1953年公園の土地を借用し個人のアトリエを建設した)。
 右は加藤清正の像。

 井の頭池に面する水生物園(分園)近くの噴水は、水中に空気を送る曝気(ばっき)装置でしたが、現在運転を停止しています。近年は「かいぼり」(水を抜いてゴミや外来魚 等を取り除き、湖底を天日干しする)等、自然の力を用いる方法に変更したおかげで、「モネの池」(リンク先の絵は目を疑うほど)のようと評判だそう。その光景は確認できなかったが、沈んでいた自転車を引き揚げる等、汗を流した方々は成果をよろこんだことでしょう。
 雑木林のように、池も手入れして蘇らせる「武蔵野スタイル」は、これから定着するのではないか(水を抜くだけではない)。


 スワンボートが増えて白鳥の湖のようになったのは、屋根がAV対策になるためか?
 以前は向き合って座る手漕ぎボートがメインで、漕ぎ手の男が張り切る姿はマンガのようですが、そんな愛すべき男たちの姿をよく目にしました。
 そんな時分には、湖畔に祀られる井の頭弁財天は嫉妬深いため、カップルでのお参り・ボートに乗ると破局する、との都市伝説(?)がありましたが、いまどきはSNSでも話題にならないのかも……


 池周辺には規制があるのか、出店は限られています。上の店舗は人気があるように、公園利用者をターゲットにするサービスはまだまだありそうです。
 訪れる人が公園に求めるのは、にぎやかさではなく「ちょっと大人の雰囲気」(代々木公園とは違う)の落ち着きのようで、確かにベンチには大人のカップル(表現が難しい…)や女性一人の姿が多く見られます。広場がないので騒ぐ連中はおらず、ざわざわする中でも景色をのんびり眺められます(花見の季節は別世界のように変貌します)。
 スワンボートより、右のボートカップルの方がロマンチックではないかと……


 井の頭公園駅周辺にはしゃれた店が並び(駅舎は2006年リニューアル)、夜の公園は暗く静かですから、隠れ家にはもってこいではないかと。
 駅から公園に下る階段が以前のままなのは、利用者が少ないせいかもしれないが、すぐ隣の鉄橋下(上)は生活路とされるようで、場所柄にしては自転車を含めた人通りが多く、手の届きそうな鉄橋も変わらぬ姿で愛着を感じます。


 公園の野外ステージは立ち入り禁止とされるようで(柵が見える)、バイオリン弾きのパフォーマー(右端)は、池と太陽を背にして演奏しています。ベンチの人々は池や夕日を眺めたいので、お互いちょうどいいのかも。
 野外ステージが作られた当時は、人が集える場所が求められたようですが、いまどきのイベントは騒ぎたい連中が集まるため、公園から排除されたのかも(キラリナ京王吉祥寺屋上はイベント会場となっています)。
 公園の喧騒にはバイオリンのメロディはピッタリですが、弾き手には「もっと!」の意欲があっても、聞く側は「もういいか」とパラパラ席を立ちます……