2011/05/23

通勤電車でGO?──渋谷

2011.5.8
【東京都】

 これまでの川シリーズ(多摩川、鶴見川)では海から上流方面に向かいましたが、今回はそれ横断する方向軸として「東横沿線」を歩こうと思います。
 通勤で利用する路線という安直さですが、普段寝ぼけまなこで乗る沿線からどこまで足を延ばし関心を高められるか、というテーマになりますか……


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金王八幡神社(こんのうはちまん)(Map)

 青山学院大学にほど近い金王八幡神社は、1092年(平安時代)造営と伝わる渋谷城址にあります。
 タモリ関連のTV番組では地形の話しになりますが、ここでは名字の話しになります。

 平安時代、桓武天皇の孫で身分の低い皇族が臣下に下る(平民になる)際、「平」(他に源・藤原・橘など)の姓を賜り氏族(同じ祖先を持つ血縁集団)となり、全国に広がる中で渋谷氏という勢力が生まれます(そんな人々全体が「平家の落人(おちうど)」と称されます)。
 渋谷氏のルーツは相模渋谷氏で、神奈川県大和市の高座渋谷(相模国高座郡渋谷荘に由来)を本拠とします。

 相模原の実家周辺でも大地主の「渋谷性」が幅を利かせており、歴史的に「神奈川県大和市・藤沢市・綾瀬市一帯に勢力を張った一族」と知ると、ガキ時分のように「へぇ、渋谷さんちってスゴイんだね〜」と驚くばかりです……

 本題の東京渋谷の一帯も、相模渋谷氏の領地だったとされては、地名由来の謎解きも色あせてしまいますが、渋谷区ホームページの地名由来には
・昔、入江があったなごりの「塩谷の里」→「渋谷」
・川の水が鉄分を多く含み、赤くさびる「シブ色」だった→「シブヤ川」
・渋谷川の流域の低地が、しぼんだ谷あいだった
 などの説が掲載されます。

 東横線渋谷駅付近で地表に現れる渋谷川のコンクリート河川敷が、赤さびに染まる印象があったので「シブ色」→「シブヤ川」説と思っていました。
 流域に分布する渋谷粘土層は、上部の赤土(関東ローム層)から溶け出した鉄分を受け止めてわき水とするため、水を赤茶色に染める原因とされます。
  現在も渋谷付近の井戸水には、全国平均の24倍にあたる鉄分が検出されるそうです。


 しかしこの神社の伝えでは「渋谷城を築き渋谷氏の祖となった河崎基家に……」とされ、社名も金剛夜叉明王の化身として生まれた息子の名「金王丸」によるとされます。
 その金王丸は、源頼朝による義経討伐の先鋒に立つも敗れますが、義経討伐の流れは大きくなっていきます。(上写真は能舞台)

 この説明には家系図が示されており、その記述によればこちらの方が祖先のように見えますが、家系図というものには重みが感じられるので、信憑性抜きでも相手を納得させる力があったりします。
 この主張の違いを分析できるほど知識はないので、ここは私見として、丸く収まりそうな「シブ色」でいかがでしょうか?(そこが渋谷区の立ち位置だったか、と納得)

 本神社は江戸時代に徳川家の信仰を得て、特に3代将軍家光(大河ドラマ「江」の息子)の乳母である春日局の信仰は篤かったそうです。

 ここは八幡宮に隣接する豊栄(とよさか)稲荷神社で、入口付近に「百度石」があります。
 時代劇ではよく見かけますが、神社を歩く機会が多くても見かけませんから、近ごろでは参道に立ってないようです。
 「お百度参り」は鎌倉時代の記録に、百日間毎日参拝する「百日詣」として登場しますが、簡略化・急を要する祈願で、一日に百度参る姿となったようです。
 それが今どきでは「1度お参りすれば、100回分の御利益がある」などとよく耳にしますから、神頼みも年々ずぼら化している気もします(もちろん現在でも、お百度を踏む熱心な方はおられるのでしょう)。


屋上遊戯施設(東急東横店)(Map)

 渋谷にはデパートが多い印象があるので「屋上遊戯施設」を調べてみるも、今や東急東横店(駅ビル)だけだそうです。
 東急東横店には、東・西・南館があり、西館は「アディダスフットボールパーク」、南館はベンチだけが置かれた喫煙スペース(ここが有閑おばさんの格好のたまり場なのには驚きます)ですが、東館には「ちびっ子プレイランド」が健在です。
(写真奧は旧東急文化会館跡地に建設中のビル)


 デパートの屋上に幼児向けの娯楽施設があるのは、お母さんの買い物に飽きた子どもとお父さんの解放区が必要なためでしょう。
 子どもは遊び、お父さんは昼寝し、そのおかげでお母さんは買い物に専念できる、見事なシナリオと思います。
 しかし、渋谷には若者向けの店舗が増え、ファミリーは繁華街ではなく郊外のショッピングセンターに足を運ぶため、渋谷の屋上施設はここだけとなりました。

 ガキの時分は「デパートで買い物=屋上施設+お子様ランチ」だったと思い出し、サザエさん一家は現在もデパートに買い物に行くことを想起しました(磯野家に車はないので、郊外のショッピングセンターには行けません)。
 原作者の長谷川町子記念館は桜新町(田園都市線)にありますから、買い物先は渋谷をイメージしたのではあるまいか(二子玉川にお買い物ではファンを裏切ります)。

 ちなみに東急東横店・東館は、暗きょ化された渋谷川の上に建てられたため地下フロアがないそうです。


スクランブル交差点(Map)

 渋谷で避けられないのがスクランブル交差点で、ここを撮るなら見下ろす視点でと思い調べてみれば、その手のロケーションは、映画・テレビ撮影向けの有料施設とされることに驚きました。
 東急百貨店屋上にどこかスキはないかと思ったものの、百貨店自体もロケーションサービスを提供しているので、きっちりシャットアウトされています。
 スクランブル交差点ロケーション協定、みたいなものがありそうです。


 撮影場所は井の頭線からの通路で、振り返ると岡本太郎の巨大壁画『明日の神話(あすのしんわ)』が広がります。
 本作は1954年第五福竜丸が、ビキニ環礁で行われた水爆実験に遭遇し被爆した際の、水爆炸裂の瞬間をテーマにしています。
 この場所に設置されたのは2008年ですが、とても力強い絵でインパクトがあるので、現在も絵を見学する方が訪れています。
 しかし先日イタズラで、下部に福島原発事故を表現するようなパネルが張られました。
 現在の社会状況からすれば、ジョークを伝えたい気持ち(アピール)は理解可能でも、他人の美術作品の力を借りるような姑息な手を使うべきではありません。
 やるなら堂々と、ハチ公前の巨大ディスプレイをジャックするくらいの心意気が欲しい気がします。


 イタズラされるからではなく、この場所にあの絵がふさわしいのか疑問に思います。
 多くの目に触れる場所であっても、通勤で毎朝「原爆の絵」を意識していたのでは士気に及ぶと思うし、ゆっくり観賞したい人には落ち着かない環境ではなかろうか。
 でも、消化不良で宙ぶらりんの状況に置かれることこそ、現在のこの国への問題提起なのだ、と言われれば反論できない気もします……


鍋島松濤公園(なべしましょうとうこうえん)(Map)

 江戸時代に紀州徳川家屋敷のあった土地が、明治時代に佐賀鍋島家へ払い下げられ、この地に開かれた茶園「松濤園」が現在の地名由来となります。
 以前から「松濤:松の枝を揺らす風の音を波の音にたとえる表現」の響きに品が感じられ、引かれるものがありました(ただの高級住宅街ですが……)。

 何でこんな場所に足を運ぶかというと、以前Bunkamura(東急本店)で映画を観る際、混雑時は整理券をもらってからの時間つぶしに、静かな場所でボーッとできたからと思います(2007年に爆発事故を起こした「松濤温泉シエスパ」は閉鎖された姿で残っています)。
 話しはそれますが映画館ついでに、先日付近の歓楽街にある映画館のレイトショーに立ち寄り驚いた件を……

 昼間でもいかがわしい印象のある一帯を社会見学と歩いてみれば、ホテル街を健全に利用するアベック(?)は好きにすればいいのですが、メモを持った派手ないでたちの女性が、人目をはばからずひとりでホテルに入っていく姿には、見知らぬ他人でもひとこと言いたくなります。
 また歓楽街の表通り(?)にはライブハウスが並ぶようで、店の前に群れる連中のテンションの高さに、文句を言ったら袋だたきにされそうな雰囲気があります。
 めったに歩かない場所ですが、遭遇する状況ごとに「危うさ」(発散の場とはそういうものか?)を感じるようですから、オヤジを自覚してしまいます。
 「映画を観に来た」といったら「青いね」とか言われそうな、熱さが感じられた気がします……

 以前この池には、三田用水(玉川上水支流で渋谷川とは違い尾根地を通る)から松濤園の茶を育てるために分水が注がれ、その流れは渋谷川に流れ込みます(現在は暗きょ)。
 
 何だか、川や水の話しが多かった気がするので、川の話しにすればよかったかと思っています……


 追記
 津波で流されたクレーン船が、700km沖合で発見され引き戻されました。
 2ヶ月で1000km以上漂流した船もあると聞き、確かに見つけて戻してあげたい気持ちも理解できますが、違った意味で沖縄に伝わる「ニライカナイ」(海のかなたにあるとされる彼岸)から、死者の魂を引き戻すような印象を受けました。

旅立った魂
 「陸も見えなくなり未練も断ち切ったから、覚悟はできている……」
引き戻そうとする魂
 「キミは戻ってこれからも活躍できる、この手を離すんじゃない!」

 これは単なる空想ですが、「あきらめるな!」(きっと見つけ出してやる)という力強いメッセージと受け止めました……

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